村上春樹訳 トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』 ★★★★★村上春樹がカポーティときたら、買わないわけにはいかない。実は私は、カポーティの『冷血』が大好きな作品であるにもかかわらず、この『ティファニーで朝食を』を初めとする初期の作品の旧訳原作はもちろん、ヘップバーンが主役を演じた映画版すら観たことがなかった。そのため、この作品に対して勝手に抱いていたイメージは、ジバンシィのドレスを身にまとって頬杖をつくヘップバーンのコケティッシュかつ、圧倒的な美しさだった。
しかし、今回改めて原作を読んだ印象は、「ゑ?この主人公がヘップバーン?」というものだった。小説のなかの主人公ホリー・ゴライトリーは、ヘップバーンのような王道をゆく魅力的な女性像ではない。小悪魔的なキャラでかぶる部分は多少あるかもしれないけれども、ヘップバーンほどの余裕も万人受けするわかりやすさもない。小猿のようにキーキーわけのわからないことをわめきたてては周囲を振り回す、いまでいう「不思議ちゃん」だ。なんというか、キャラクターの魅力のベクトルが、まったく違うのである。そんなことに驚く一方で、改めて小説版のホリーの「あっけらかんとした屈折ぶり」と、そこからもたらされるかげろうのように稀少な存在感に魅了されるとともに、カポーティという作家の底知れない地力に圧倒された。
同様のことは、訳者の村上春樹氏も解説で述べている。これはフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の村上氏による新訳版を読んだときにも思ったことだが、彼の訳した作品を手に取る価値の一つは、巻末に収録されている村上氏の解説だ。もうこれが、なんとも的確かつムダなく読後感をぴったりと、かゆいところに手が届く感じで解説してくれるのである。一部を引用しようかとも思ったが、「どこを」となると全部になってしまうのであきらめた。そして、「みん★」の数を4にするか5にするかでずいぶん迷ったのだが、著者・訳者(解説)の組み合わせの素晴らしさで5にした。どちらか一方が欠けていたら、4にしていたと思う。機会があったらぜひご一読ください。
なお、この本には、『ティファニーで朝食を』のみならず『花盛りの家』『ダイアモンドのギター』『クリスマスの思い出』などの小編も収載されている。そのどれもがすばらしい。ついでに言うと、ティファニーブルーのシンプルな装丁もいい。本棚にずっと入れておきたい作品だ。
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