潜水夫

 私には手の届かないものが、お前のふところに転がり込む。目を丸くして、大声をあげて、大げさな身振りでお前はそれを見せにくるだろう。きいちごのジャ ムで汚れた皿にひとすじの髪の毛。壁に掛けられた潜水服を、私はそこにいる誰かのように眺める。あいにくなことにアパートの窓に明かりはなく、がっかりし たお前は階段をぶざまに肩から転げ落ちていく。すべてが理想の結婚に向けて敷かれたレールであるような、踏切を待つ奇妙な動物たちのなす列が横目に見られ る日々のうちに、人々は人と々に切り分けられてたましいの少ない顔を上げる。私は表面が泡だらけの手紙をお前からうけとって眺める。そこには戦争という言 葉が定義をかえて無数にくりかえされているが、私はそこにあるどの戦争へも行ったことがない。ということを返事でなく、無関係な何者かへの手紙に書いて投 函した初夏の夕。お前が屋根のうえでたてる足音を、句読点のタイミングにさえ採用しなかったのは私だろうか。

小説(超短篇)
2007/12/08




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