其之参拾

桐野幸雄は、あれ以来、練習を繰り返し、

ギターはそこそこの腕前になっていた。

そして、ひさびさに駅前でストリートライブを

おこなった。

「あ。大輔さん、恵さん、こんばんわ」

「お、君か。こんばんわ。久しぶりだねー」

向井大輔はあいかわらずの穏やかな口調で言った。

「こんばんわ。元気してた?」

鈴木恵は以前のことを思い出し、笑いをこらえながら、

挨拶した。

「元気ですよ。あれから、めっちゃ練習したんで、

多少、腕は上がってると思います」

「うん。さっき、横で聞いてたけど、上達してるねー」

「ありがとうございます。

あれから、あまりにキーの高い曲は止めてます。

忠告どおりに。

手ごたえもなかなかありました」

「よかったじゃん。そういえば、今日は商店街の方で

麗華ちゃんがライブやってるみたいなんで、

今から行くんだけど。君も行くかい?」

「ああ。あの可愛かったコですね。

行きます、行きます。是非!!」

「あはは・・・あいかわらず勢いあるね。

若いっていいな」

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岡井商店街に入ると、アルペジオにのせた

美しい歌声が、アーケードをかすかに震わせていた。

そして、風が”ことのは”を運び、人々のこころの

琴線を奏でた。

「すげー・・・・。なんか・・・・涙が出てきた。

こんなの初めてだ・・・・」

幸雄は目に涙を潤ませ、鼻水をすすった。

「すごいな。

彼女、ここまでうまくなってたんだな・・・」

「うん・・・。せつない詞が心に響く・・・・」

麗華をとりまく観衆の数は、

大輔と恵のデュオ”FINE LINE”を上まわっていた。

「駅前じゃなく、商店街でここまで集められたら、

もう私たちより彼女のほうが上ね・・・」

恵は感心して言った。

「・・・ああ。ただ、ただ・・・すごいな」

パチパチパチパチ・・・・・・

ライブを終えると無数の拍手と歓声が彼女を包んだ。

そして、人波が静まってから、三人は麗華に近づいた。

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2008/05/25




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