隣人A7月5日
しとしと雨が降っている。
洋子は少し小降りになったのを見計らい家を出ると、丁度
郵便配達のバイクが走って来た。
「あ、奥さんですか?今日の分です」
配達員のお兄さんに手紙を渡され、洋子は一旦家に戻る。
そして、手紙を靴箱の上に置いた途端、洋子は思いついた
ように玄関を飛び出し、川名の家に車があるかを確認した。
が、無い。
と、言う事は川名は外出したのだろう。
洋子は周囲を見渡し、近所の人間が居ないのを確認す
ると、周囲に気を配りながら川名の家の前まで来た。
ドキドキしていた。
こんな事を自分がする人間だとは今でも思っていない
が、洋子の手は自分の思いとは裏腹に、川名の家の
郵便受けに入っていた。
洋子は、手に取った数枚の手紙の内容も確かめずに
家に走り戻ると、リビングのカーテンを閉じ、机に手紙
を並べる。
葉書1枚。
封書が1枚と、ダイレクトメールを持って来た様である。
全てに川名陽二と書かれているので、あのボサボサ
頭の隣人は陽二と言う名前なのだろう。
ダイレクトメールは、まあタイミング良く家具店のセー
ルかなんかの物であった。
洋子は葉書と封書を見つめていたが、まず葉書を手
に取り読み始めた。
『先日は素敵なバッグをありがとうございました。
私の方はもう気持ちの清算は出来ているので、もうお
気遣い無いように。
あなたのせいだなどとは思っておりません。
野口 順子』
裏を返すと、差出人は新宿区歌舞伎町となっている。
そして、封書を手に取ったが、流石に洋子もこれを開け
るのはためらった。
しかし、ここまで来て見ない筈も無く、洋子は台所に濡
れ布巾を取りに行くと、糊付けされた部分を軽く湿らせ
ゆっくりと開封した。
洋子の鼓動は再び高まる。
平々凡々と暮らしてきた洋子にとって、こんなスリリング
な展開は無かったといって良いだろう。
誰に見られている訳
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