隣人A6月30日
洋子は何だか今日も隣人の事が気に掛かっていた。
昨日越してきたはずの隣家は、まだやらなきゃならない作業
がある筈なのに、人の気配を感じない程静かであったし、昨
夜遅くから停まっている黒塗りの高そうなベンツも気になって
いた。
高雄は今日は土曜だったが、ゴルフだと言って朝早く出掛け
て行った。
洋子は、友人の杏子と新宿でランチの約束をしているので化
粧をしていると、隣家からドンドンと壁を叩くような音がする。
あ、やっぱりいるのね。そう思って気にせず手を動かしていた
が、良く聞いてみるとドンドンと言う音の他にうめき声の様な
叫び声の様な物が微かに混じって聞こえて来る。
洋子は気になりベランダの窓を開け隣を窺うが、カーテンが閉
まっていて中を窺い知る事は出来ない。
しかし、やはりうめき声の様な物は聞こえて来るし、壁を叩く
様な音もするので聞き耳を立てていると、少ししてピタッと音
は止んでしまった。
何なんだろう?とは思ったが、杏子との約束があるので、洋
子は急いで身支度を済ませ家を出た。
家を出て隣家の前を通る際、洋子は勿論、隣家の様子を窺う
様にして通ったが、まだ表札は無く名前も分からず、玄関脇
の駐車場には黒塗りのベンツが相変わらず置いてあるだけ
で、さっきのうめき声が幻聴であったかの様に静まり返って
いた。
洋子は新宿に向かう電車の中で、昨日越して来た不思議な
隣人の事を整理して考えてみようと思ったが、名前も分から
ないこんなに情報の少ない段階では、ただ、謎が深まるば
かりでまとまる筈が無かった。
そして洋子は杏子と会うと、ランチを摂りながら、そのまとま
らない考えを吐き出すように杏子にぶつけた。
「ね?何だか変なのよ、仏像やら、便座やら、高級外車が停
まってるかと思ったら、何だか変なうめき声みたいなのは聞
こえて来るし・・・しかも挨拶にも来ないのよ?普通引越しした
ら近所に挨拶回り位しない?」
杏子は3ヶ月後に出産を控えているその大きなお腹をさすり
ながら
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