[Y01] もりかわ書店(45点) 昼休みのこと 。杏奈は裏の控え室で紅茶を飲みながら小説を読んでいた。本好きの杏奈がバイト先にここを選んだ理由の一つは、これである。誰と比較してもおっとりとした気質の店長、森川忠久はバイト採用の際杏奈に「ここにある本は全部読んでいいよ」と気のいいことを言っていた。杏奈はそれを忠実に守っているだけである。
「高峰さん、商品、汚さないでよね」
その声は、パートの相澤美雨である。どうやら主婦らしい相澤はこの書店の従業員としては一番の古株である。
「汚れたら買い取ります。社割りで」
「そうしてくれると助かるわ。でも、社割り制度は認めないから」
一見言葉はきついし実際に顔もきつめなのだが、決して相澤はきつい人ではない。単に、本気でこの書店の経営(者)を心配しているだけである。本人がそう言わなくても、数年ここでバイトしている杏奈はもちろん、まだバイト歴半年の清孝も気付いているだろう。
「それから、そろそろ佐藤君とレジ変わってね。私は店長探してくるから」
「はい」
「ほんと、店長ったらどこ行ってるんだろう……」
ぶつぶつと文句を言いながら相澤は店長を探しに書庫である2階に向かう。階段を上がりきる彼女の足音を確認してから、読みかけのページにしおりを挟み、それを持って杏奈は店に出た。出版社別、作者別に並んだ本棚に、その本を返却する。一度店内を見渡してみたが、レジで漫画を読んでいる佐藤清孝以外、人は誰もいない。客も、店長もである。
「佐藤くん、店長は?」
清孝は杏奈に気付くと手早く漫画を片付ける。先程の杏奈と同じように、ちゃっかりしおり代わりにその辺にあった紙を挟んでいる。
「1時間くらい前に、銀行に行ってくるっていって、出て行きましたけど」
「一時間前? 銀行まで徒歩5分なのに?」
「そういやそうっすね。またパチンコでもしてるんじゃないっすかぁ?」
「パチンコ?」
杏奈は清孝をレジカウンターから追い出し、自分がカウンター内の丸椅子に座る。清孝は『もりかわ書店』の名前が入った緑色のエプロンを外すと、カウンターに肘をつきながら小声で話す。
「これ、相澤さんには内緒ですけど、店長、駅前のパチンコ屋に通ってるみたいっすよ。先週、俺の友達が見たって言ってたんっすよ」
「店長がパチンコねぇ……」
どうにかしてパチンコに打ち込む店長を思い浮かべてみるが、どうしてもピンとはこない。店長のことだからおそらくパチンコをやったとしても、千円までしか使わない、とかいう健全な遊び方をしているのだろう。店長がドル箱を持ったら、80%の確率で床に落としそうだ、と一度想像したら、慌てふためきながらパチンコ玉をかき集める店長の姿が用意に頭に浮
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