[Y06]もりかわ書店 (ちいさくなった鉛筆)

 佐藤清隆は、都内の大学に通う、至って普通の大学生である。一年の浪人生活の末、底辺すれすれの大学に今年入学することになった。もちろん、授業よりバイトの生活である。彼は、夜は居酒屋、日中は週3で本屋のバイトをしている。
 赤みがかった色の髪に、小汚いジーパン、銀色のアクセサリをたくさん身に着けた彼は、その格好で本屋にやってきた。
「佐藤君、おはよう」
「ちわっす」
 寝癖のまま店に出るような店長である。バイトの子の身なりや服装には無頓着である。
「じゃあ、あとはよろしくね。そろそろ高峰さんがくるから。僕はちょっと、出かけてくるね」
「はーい」
 店長が店を出て行くのを確認すると、彼はエプロンを首に掛け、自分のカバンの中に手を突っ込む。今日の午前中は大学に顔を出したのだが、そこで講義のレポートを課せられたので、さっさと仕上げてしまおうと思ったのである。幸い、先輩のレポートのコピーは入手済みである。あとはちょっと内容を変えつつ、書き写せばよい。
 レジの横にレポート用紙を置き、筆入れからシャーペンを取り出した時、ふとレポート用紙の上に影が落ちた。清隆が顔を上げると、覗き込むように杏奈がレポートのコピーを注視していた。
「佐藤君、勉強してるの?」
「あ、ちわっす。そんなに俺が勉強してんの、珍しいっすか?」
「私が知る限り、初めて見るよ」
「俺、いつも、高峰さんがいないところで勉強してるんで」
「あ、そう」
 あからさまに呆れ顔で答えられたので、清隆は何も言わず転記を続ける。杏奈は一度支度をしに奥の控え室に入っていったが、すぐにエプロンをつけて店に出てきた。レポートの隣に手をつき、カウンターの中で座っている清隆の横に杏奈は立つ。清隆は熱心にレポートを書き写しているのか、横にいる杏奈を見ることはなかった。
 杏奈は、近くにあった椅子を引き寄せ、清隆の隣に座る。客はこないし、とりわけ急いでしなくてはいけない仕事はないので、杏奈もカウンター脇に常備していた読みかけの文庫本に手を伸ばした。
「出来た!」
 杏奈が10ページほど読み進めたころ、隣では清隆がカウンターに散らばった消しゴムのカスをそのまま店の床に落とし、お世辞にも綺麗ではない字で埋められたレポートをカバンに押し込んでいた。手にしていたシャーペンを筆入れに戻そうとしたとき、勢いあまってカウンターから筆入れを落としてしまう。しょうがないので、杏奈は床に散らばったペン類を拾ってあげる。
「もう少し、落ち着いたら? さっきのレポートも、『専門』の『門』に余計な『口』書いてたしさぁ」
「なんで、教えてくれないんっすか!?」

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Act.1 --yellow--
2006/10/08




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