ジャックの緑北海道の上士幌町で2カ月ほど牧童として生活した後、友達の住む旭川と札幌を経て礼文島に向った。まだ学生だった頃の話だ。
観光を主な収入源とする北海道の離島は、礼文島と利尻島しか知らない。利尻島には中央に裾野の広い山があり、それは利尻富士と呼ばれる。主に登山を目的とする人が訪れる島だ。一方の礼文島は、島全体が高原のような面持ちで、ここにしか生息しない草花を目当てに訪れる人が多い。
ボクが礼文島で泊まった旅館は、まげを結ったご主人ときれいな奥さんが切り盛りしていて、到着した日がちょうど記念日だった。何の記念日かと言うと、年に一度、一人旅でここを訪れ、ここを気に入ったリピーター客たちが一同に介す日だった。
皆で食事をとりながら、何となく手さぐり的な会話にぎこちなさを感じてはいた。どういう関係の人たちの集まりなのか、そのときは分からなかったからだ。ただ、何かの集まりに自分は飛び入りしてしまった、という感覚はあった。
夕食を終えると皆で丘に登って、まげを結ったご主人がギターを弾いた。『天空の城ラピュタ』の主題歌だった。その日のために用意したというジャックダニエルのグリーンラベルを皆で回し飲みした。ぐいっと飲むと、食道がかっと熱くなる。美味い。
野草の上に寝そべると、大量の流れ星が見えた。空気がきれいだと思った。空もきれいだと思った。このままジャックの酔いに任せて眠ってしまいたい気分だった。
* * *
それ以来、東京都内のバーに行ってはジャックダニエルのグリーンラベルを探すのだけど、置いている店はまずない。日本国内では流通していないという話も聞いた。
ただ、出来るバーテンはいるもので、「ジャックの緑はないの?」と聞いた翌晩に仕入れている店があった。仕入れのルートがあるんだろう。出来る人間は仕事が早い。
今日はその貴重なジャックの緑を飲みながら、礼文島の草花と星空を思い浮かべた。この店は、一人で飲みに来るための特別なところだ。誰にも教えていない。
たまには一人で飲むのもいい。明日は、牧童時代の思い出話でも書こうかな。ボクの話には必ずと言っていいほど女が登場するのだけれど、それはボクが常に女を求めているからだと思う。
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