イギリスは衰退したのか?最近、自分の所属しているゼミで読んだ本にW・D・ルービンステインの『衰退しない大英帝国』というのがあります。この本の主張は「イギリス衰退の原因は反産業的精神によって生まれた文化である」という解釈に対する反論です。ルービンステインは日・米・独と比較しながら、イギリスには反産業的精神の占める割合は少なかったとしています。そして、彼は更にイギリスの産業は衰退したのではなく、「ぺティの法則」に従って金融・サービス業へ経済の比重がシフトしたのだと論じています。たとえば、イギリスのGDP額に比べてロンドンのシティは世界有数の金融街として大きな影響力を持っている、のように。
ここ最近の近代イギリス史研究では、綿産業の様な工業部門よりむしろシティの金融部門に注目が集まっています。この金融部門の統計を見てみると、イギリスは必ずしも衰退したとはいえないのではないのか、という議論が活発化しています。こうなると、イギリスが20世紀に衰退したという一般認識に疑問符が付いてきます。
これを自分の専門分野であるイギリス海軍史に当てはめてみると、かつては巨大な戦艦を多数有していたロイヤル・ネイヴィーは第二次大戦後に規模を縮小し、今では小型の空母三隻(うち一隻は予備役)を中心とするささやかな海軍となっています。しかし、この「小さな海軍」というのはアメリカという例外的な大海軍と比較した場合で、複数の空母(軽空母でも)を保有し、それ以外にも強襲揚陸艦や原子力潜水艦などを効率的に運用できる海軍となるとやはりイギリスがナンバーワンといえます。確かにロシアは多数の原潜を保有しアメリカに次ぐ規模の空母を保有していますが、その空母は現在一隻しかなく効率的な運用はできませんし、海軍自体が予算不足で活動は低調です(最近は復活の兆しがありますが)。他の国は、フランスは原子力空母を持っていますがこれも一隻だけ(もう一隻造る予定でしたが予算不足で断念)、おまけに空母を無理に建造したため他の艦艇の活動が低調になる始末。日本に至っては空母も原潜も持っていません(その代り多数の護衛艦や大型の通常動力潜水艦を保有しているのですが)。そう考えてみるとイギリスはアメリカを除けばなかなかの海軍を今でも保有しているといえます。
まだ確定的な結論は出ていませんが、この「イギリス衰退」に関する議論は非常に大きな実りを与えてくれると思います。
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