『メビウスの輪』vol.19 山口祐三 第4話
~覚醒した力~
僕の大好きな画家「ポパイ」。彼は、民族同士の争いが絶えない時代に一枚の絵を掲げ国に平和をもたらしたという偉人だ。その時の絵、
「石ころ」
大きなキャンパスに一つの石ころの絵と共に
「我々は皆この石ころの様なもんだ。」
との一言で争っていた民族たちは全員武器を捨てたという。
僕はいつも言えなかった。気持ちを、本心を、心を。いつも、そうだった。
叔父さんが大麻というハッパを吸っている時、目がおかしくなって、きっとこれは危ないハッパなんだと思っていながらも
「叔父さん、やめなよ」
とは言えなかった。
ねぇさんが僕の事を思って買って来てくれた「ナイキ」のTシャツだと思ったロゴ表示が「タマキ」だった時も、
「ねぇさん、これ、パチ物だよ」
とは言えなかった。
母さんがいなくなってからいつも見えない誰かと話をするようになった父さんが靴ベラに向かって「今、何時?」と聞いてる父さんに、
「12時40分だよ」
とは言えなかった。
兄さんが高校三年生の時に大便を漏らした事は誰にも言わなかった。
そして、家族はバラバラになった。
あの時、ちゃんと伝えていればよかったと思ってももう戻って来ない。
叔父さんが捕まり、兄さんが出ていき、ねぇさんが失踪した。
そして、僕は本当の父親と名乗る「ボブ」という男に引き取られた。
がっちりとした体格で黒いタンクトップ。暇さえあればアーミーナイフをといでいる。昔は、軍人だったのかもしれない。本当の父親と知っても彼に対して特別な感情は沸いてこなかった。
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