去っていくあなたに
〈キプロス島の王ピュグマリオーンは王国内の女性という女性の行状の悪さに失望し、象牙を彫って理想の女性像を造形するが、たちまち自製の象牙彫刻に恋してしまう。〉筆者のこころに古代ギリシャびとの想像力の卓抜さを深く印象づけたこの神話はその後、〈愛と美の女神アプロディーテによって生命を注ぎ込まれた象牙像とピュグマリオーンがめでたく結ばれる〉ことにより終結する。
珠玉のギリシャ神話から現実の醜魁さや理想と現実の乖離を演繹して悲観するか、それとも失意を超克してついに理想を実現してみせたキプロス王の健気さを称えるかは読者判断に委ねられるべきであるが、去りゆくあなたには後者の解釈こそがふさわしい。わたしたちの一生には夢のようなできごとが実際起こりうるし、稲が熟れるように理想が結実することがあるものだ。この世に夢想を語る青年ほど ”創造”の真義を知るものはいないのである。
未来時とはこれからあなたが執筆しようとする一編の美しい詩篇に他ならない。世界でたったひとり自分という人間にしか書けない無比の叙事詩があるはずだ。それを完成させることこそあなたの人生の主題でなければならないと考える。
(『平成20年度春季卒業生アルバム』2009年3月)
カテゴリー一覧
最近のコメント
このブログを友達に教える