タイムカプセル - 21母が来たその日の夜に、剛が私の実家に挨拶に行くことになった。剛の存在を知った父が、早い方がいいと言ったらしく、その日の夕食をうちの実家でみんなで取ることになったのだ。
着る物がないと剛が言い出して、わざわざ浜ノ町アーケードまで行き、紺のスラックスとクリーム色のシャツを買った。紳士服売り場で剛と一緒に彼の服を選ぶ、そんなことが何だかとても幸せだと思った。
約束はかなり早い5時だった。
ちょっと緊張気味の剛を、実家に案内した。
実家は2年前に引っ越したばかりの新築マンションの中の一軒で、一応長崎の田園調布と言われている平野町の一角にあった。
「ただいまー。」
「おじゃましまーす。」
「いらっしゃい。」
父が玄関で出迎えてくれた。
「父よ。」
「は、初めまして。桑戸剛です。よろしくお願いします。」
「亜沙美の父親です。まあどうぞ、汚い所ですけど、上がって下さい。」
父がそう言い、みんなでビングルームに行った。
リビングルームはいつになく綺麗に掃除されていた。テーブルの真ん中に低いフラワーアレンジメントまであって、母が気合いを入れている証拠だと思った。ベランダに向かって開けた窓の向こうに、鮮やかな緑の稲佐山が見えた。
リビングルームには妹の奈津美がいた。
そして、キッチンからすぐに母も出て来た。
「こっちは妹の奈津美。来年大学卒業よ。うまくいけばの話だけど。」
「お姉ちゃん、もう、何言うのよ、いきなり。奈津美です。よろしくお願いします。」
奈津美が剛におじぎした。
「桑戸剛です。よろしくお願いします。」
剛もおじぎをする。
「そして、こっちが今朝会ったけど、母ね。」
「今朝方は失礼しました。桑戸剛です。よろしくお願いします。」
「あ、はい。亜沙美の母親の清水葉子です。こちらこそよろしく。今朝はごめんなさいね。何の心の準備もしてなかったから、びっくりしちゃって・・・。」
「いえ、こちらこそ。ご挨拶が遅くなってすみませんでした。」
「まあ立ち話も何だから、座って下さい。」
父が言った。
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