○長征社という情熱 長征社の主宰、市山隆次さんとは長いつきあいになった。83年に若一光司さんの文藝賞の受賞を祝う会が大阪であり二次会場で若一さんから紹介を受けた。「装幀事務所」の名刺を渡すと市山さんは「ほう、」と言った。「ほう、」というのは名刺に「装幀事務所」があったからだが「関西でめずらしい」と言われたことを憶えている。のちに大阪で岩波の編集者であり装幀家の田村義也さんに渡したときも同じ「ほう、」が返ってきた。ついで「デザイン事務所じゃないんですね」と微笑まれた。この名称はたぶん日本で一つしかないだろうという自負はあった。(それがどーしたの、と言われても仕様がないが)それじゃあデザイン事務所ではないのか?わたくしはデザイナーではないのか?「じつはそうなんです」という「装幀家とブックデザイナーの違い」は長くなるので、また後日。
さて市山隆次さんだが最初の印象は眼がぎょろっとして太っ腹で海賊みたいだった。失礼な話だがとても出版社の人には見えなかった。今まで見たことのないタイプ、眼光するどい事件記者のようでもあった。後日、西中島南方という地下鉄の駅の近くの事務所に出かけた。新しいエッセイ集の件だった。大きな倉庫のようなワンルームがその海賊の住処(?)だった。段ボールの山と草野球用の野球のバットやミットが目立った。やはり変わった出版社だと思った。名著、北井一夫『新世界物語』で知る人ぞ知る版元だったがその当時は未だ発行本は少なくノンフィクションものでは関西随一になるのはずっと先のこと。ざっと思いつくだけで『ジンバブエ』『シベリアをわたる風』『議会という装置』『私は女』『がんばれコータ』『ジュンパ・ラギ』『陛下にヨロシク』『われら國民學校生』『上海ちゃんぽん』『少女宣言』『瀬戸内海底探査』『望郷のシンフォニー』『父・KOREA』『理想のゆくえ』『ジンバブエ・収穫の秋』『草とり草紙』『トランの国』『走れ藤村』『女・仕事』(順不同)等々…。どれもこれも広範な社会性を孕み人間味に富んだ興味深い本ばかりだ。この本の多くはぼくが装幀させてもらったが懐かしい思いが山ほど詰まっている。
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